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擁壁は誰の責任か——民法は、まず使っている人、次に持ち主の順で賠償の責任を置いています。行政が代わりに直すことはありません

公開 2026年8月12日最終更新 2026年10月5日執筆 家の補助金ナビ編集部

神奈川県は、擁壁を安全な状態に維持する責任は、擁壁のある土地の所有者・管理者・占有者にあると案内しています。そして崩れて他人に損害が出たときの賠償については、民法がまず占有者、次に所有者という順番を条文で定めています。

占有者というのは、その土地や擁壁を実際に使っている人のことです。自分で住んでいる持ち家なら、占有者と所有者は同じ人になります。土地を借りて使っている場合は、この2つが分かれます。

ただし、法律が工事そのものを義務づけているわけではありません。建築基準法と盛土規制法が置いているのは努めなければならないという努力義務で、工事を命じられるのは行政が危険だと認めた場合だけです。

隣の擁壁が心配な場合は、さらに事情が変わります。神奈川県は行政機関が民事トラブルに指導・介入することはできませんと明記しています。当サイトが危険ブロック塀の撤去補助を確認した237市区町村のうち、192市区町村は道路等に面することを条件にし、45市区町村は隣の家との境界だけにある塀を対象外としていました。

この記事では、民法・建築基準法・盛土規制法の条文がどこまで書いているのかを分けて整理します。そのうえで、隣とのもめごとで行政がどこまで動けるのか、相手の負担で直させる民事の手段はあるのか、実際の裁判でいくらの賠償になったのか、相談先はどこかまでを書きます。区が長年指導していた擁壁が崩れた杉並区の例も、区の発表をもとに載せています。

先に結論

✓ ここが要点

擁壁について定めた条文は、民法・建築基準法・盛土規制法の3つにまたがります。どれも責任を負う人として所有者・管理者・占有者の3者を名指ししています。ただし建築基準法と盛土規制法が置いているのは努めなければならないという努力義務で、直す工事を命じられるのは、行政が危険だと認めた場合に限られます。隣同士のもめごとに行政ができることは、かなり限られます。残るのは民事の手段で、相手の負担で直させる妨害予防請求が判例で認められていますが、危険を専門家の書類で示す必要があり、認められないこともあります。

条文の役割を並べると、次のようになります。

法律 定めていること かかる範囲
民法第717条 崩れて他人に損害が出たときの賠償 土地の工作物すべて
建築基準法第8条(第88条第1項で準用) 常時適法な状態に維持する努力義務 高さ2メートルを超える擁壁
建築基準法第10条(同) 著しく保安上危険なときの勧告・命令 同上
盛土規制法第22条 常時安全な状態に維持する努力義務と勧告 宅地造成等工事規制区域内の土地
盛土規制法第23条 改善命令 同上

※ 表は横にスクロールできます

同じ擁壁でも、高さと場所によって当たる法律が変わります。高さ2メートル以下で規制区域の外にあれば、建築基準法と盛土規制法のどちらも直接は当たりません。それでも民法は当たります。

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崩れて他人に損害が出たとき——順番があります

擁壁が崩れて隣の家や通行人に被害が出た場合の賠償は、民法第717条が定めています。

土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

条文の言葉を1つだけ置きかえておきます。瑕疵とは、あるべき安全性を欠いている状態のことです。造り方に問題があった場合も、造ったあとの手入れが足りずに傷んだ場合も、どちらもここに入ります。

読むときの要点が3つあります。

1つめは順番です。先に来るのは占有者、つまりその擁壁を実際に使っている人です。所有者が出てくるのは、占有者が必要な注意をしていた場合です。自分で住んでいる持ち家なら、占有者と所有者が同じ人になります。

2つめは、所有者の側に逃げ道が書かれていないことです。占有者には「必要な注意をしたとき」というただし書きがありますが、所有者にはそれに当たる定めが置かれていません。

このような責任を無過失責任といいます。過失(=不注意)が無くても負う責任、という意味です。

国土技術政策総合研究所(国土交通省の研究機関)が公開している弁護士の解説は、所有者の責任をこう説明しています。

この場合の所有者の責任は無過失責任であり、建物の設置管理等に過失はない(十分に注意を払っていた)場合でも責任を負う。

建物の中で起きた事故についての解説ですが、もとになっている条文は同じ民法第717条です。

3つめは、条文が求めているのが「設置又は保存に瑕疵」だということです。造ったときの問題でも、その後の手入れの問題でも当たります。逆に言えば、瑕疵が無ければこの条文では責任を負いません。実際に瑕疵があったかどうかの最終的な判断は、裁判所が行います。

なお、第717条第3項は、損害の原因について他に責任を負う者があるときは、占有者又は所有者はその者に対して求償権を行使することができるとしています。造った業者に原因がある場合などが考えられます。

! ここに注意

借りている土地の擁壁については、条文の上ではまず占有者が賠償の責任を負うことになります。ただし「必要な注意をしたとき」は所有者に移りますし、賃貸借の契約書で修繕の分担を決めていることもあります。土地を借りて使っている方は、契約書の修繕に関する条項をあわせて確認してください。

地震や大雨で崩れた場合は

「地震で崩れたのだから仕方がない」と言えるかどうかも、同じ条文の中で決まります。第717条第1項が責任の条件にしているのは、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることだからです。

つまり、揺れたから免れる/免れない、という形の定めではありません。地震や大雨は損害のきっかけであって、条文が見ているのは擁壁の側に瑕疵があったかどうかです。実際にどう判断されるかは、擁壁の造り方や傷みの程度など個別の事情によりますし、最終的には裁判所が決めます。

国土技術政策総合研究所が公開している解説は、この点を次のように書いています。

事故の発生が大地震や大型台風などの通常予測できない自然力により直接的には事故が発生したとしても、建物等に瑕疵が存在していれば因果関係は否定されない。自然力と瑕疵の存在のそれぞれの損害に対する寄与度を検討し、責任割合が決定される。

同じ解説は、過去の裁判例のなかに、自然の力が損害に影響した度合いを5割とみて、賠償額を5割減らした例があるとも書いています。

災害がきっかけでも責任が無くなるとは限らず、割合の話になる、ということです。

逆に言えば、チェックシートで点数が高いと分かった状態を放置していたことが、後から問われる材料になり得ます。測った結果は記録として残しておいてください。

実際の事故では、いくらの賠償になったか

条文だけでは規模がつかめないので、公開されている2つの事例を挙げます。どちらも個別の事情のもとでの結果で、同じ結論になるとは限りません。

◆ ケースで考える

逗子市の斜面崩落(2020年)

2020年2月、神奈川県逗子市の分譲マンションの敷地内の斜面が崩れ、下の市道を歩いていた高校生が巻き込まれて亡くなりました。遺族はマンションの所有者ら約50人に約1億1800万円の損害賠償を求めて提訴し、2023年6月28日に横浜地裁で1億円を支払う内容の和解が成立しました。管理会社と担当者に対しては、2023年12月に横浜地裁が別の訴訟で約107万円の支払いを命じています。

北九州市の擁壁崩落(2016年)

2016年9月、北九州市八幡西区で、大雨のときに間知ブロック積みの擁壁(高さ最大約5メートル・幅約25メートル)が崩れました。福岡地裁小倉支部は2024年7月18日、基礎の地盤の強さと裏側の排水対策が足りなかったとして擁壁の瑕疵を認め、土地を売った会社・開発した会社・設計者の3者に約2800万円の賠償を命じました。一方で、造成と擁壁の工事をした業者と北九州市の責任は認めませんでした。

見えてくることが2つあります。

1つは、自分の敷地の斜面や擁壁が崩れて他人に被害が出れば、賠償は数千万円から億の単位になり得ることです。逗子市の和解金は1億円でした。

もう1つは、誰が責任を負うかを裁判所が個別に判断することです。北九州市の例では、造った経緯までさかのぼって売主・開発業者・設計者の責任が認められ、工事をした業者と市は責任なしとされました。買った土地の擁壁に問題があった場合、売主や開発業者の責任が問われることもある、という例です。

直す義務は「努めなければならない」まで

では、崩れる前に直す義務はあるのでしょうか。ここで条文の書き方をよく見る必要があります。

宅地造成及び特定盛土等規制法第22条第1項は、こう定めています。

宅地造成等工事規制区域内の土地の所有者、管理者又は占有者は、宅地造成等(宅地造成等工事規制区域の指定前に行われたものを含む。次項及び次条第一項において同じ。)に伴う災害が生じないよう、その土地を常時安全な状態に維持するように努めなければならない。

建築基準法第8条第1項も同じ形です。

建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。

どちらも努めなければならないという書き方です。違反したから直ちに罰則、という形の条文ではありません。

ただし、この2つには当たる範囲に限定が付いています。

盛土規制法第22条は宅地造成等工事規制区域内の土地が対象です。自分の土地が区域に入っているかは、市の宅地担当窓口か公開されている区域図で確認できます。区域の指定より前に行われた造成も含まれると、かっこ書きで明記されています。

建築基準法第8条は、文面のうえでは建築物についての決まりです。擁壁は建築物ではありません。それでも当たるのは、第88条第1項が同じ決まりを工作物にも当てはめると定めているからです。条文ではこれを準用といいます。

煙突、広告塔、高架水槽、擁壁その他これらに類する工作物で政令で指定するもの……については、第三条、第六条……第八条から第十一条まで……の規定を、……準用する。

政令が指定しているのは高さが2メートルを超える擁壁です。高さ2メートル以下の擁壁には、この維持保全の規定は準用されません。高さの数え方と確認申請については、擁壁の確認申請——高さ2メートルを超えると要りますで条文から整理しています。

命令が出るのは、行政が危険と認めたとき

努力義務の先に、命令の条文があります。相談すれば出るものではなく、行政が危険だと認めた場合に動くものです。

盛土規制法は、勧告と命令を段階で分けています。第22条第2項が勧告です。

都道府県知事は、宅地造成等工事規制区域内の土地について、宅地造成等に伴う災害の防止のため必要があると認める場合においては、その土地の所有者、管理者、占有者、工事主又は工事施行者に対し、擁壁等の設置又は改造その他宅地造成等に伴う災害の防止のため必要な措置をとることを勧告することができる。

第23条第1項が命令です。条文は長いのですが、動く条件がはっきり書かれています。必要な擁壁等が設置されていないか極めて不完全であり、放置すると災害の発生のおそれが大きいと認められる場合に、相当の猶予期限を付けて、擁壁等の設置若しくは改造などの工事を行うことを命ずることができる、という形です。

建築基準法の側では、第10条第3項が同じ役割を持ちます。命令を出すのは特定行政庁(建築行政を担当する市や県の部署)です。

特定行政庁は、建築物の敷地、構造又は建築設備……が著しく保安上危険であり、又は著しく衛生上有害であると認める場合においては、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを命ずることができる。

この2つが効いてくる場面が1つあります。擁壁の補助を、勧告や命令を受けた人に限っている市があるためです。鎌倉市の既成宅地等防災工事資金助成制度がその形で、詳しくは擁壁の補助金——直す補助と、危険な場所から移る補助は別ものですで整理しています。

✓ ここが要点

順番を整理すると、努力義務 → 勧告 → 命令の3段になります。努力義務が盛土規制法第22条第1項と建築基準法第8条、勧告が第22条第2項と建築基準法第10条第1項、命令が第23条と建築基準法第10条第3項です。命令に至るのは、行政が現地を見て危険だと認めた場合です。心配だから見に来てほしいという相談と、命令が出るかどうかは別の話になります。

区が亀裂を把握して41年、直すのは所有者のままでした——杉並区の例

行政の指導が続いているあいだに何が起きるのかが分かる例があります。東京都杉並区が公表している経過です。

◆ ケースで考える

杉並区堀ノ内一丁目の擁壁崩落(2025年)

2025年9月30日の午後7時20分ごろ、杉並区堀ノ内一丁目で高さ4〜5メートルほどの擁壁が崩れ、上に建っていた一戸建てが全壊しました。がれきは区有通路をふさぎ、隣のマンションのベランダにも一部が入りました。所有者は崩れる前に避難していて、けが人はいませんでした。

擁壁は1968年に造られた鉄筋コンクリート造で、築57年でした。区は1984年にこの擁壁の亀裂を把握し、その後は毎年の現地調査と、所有者への文書や対面での指導を続けていました。所有者との接触は前の所有者に12回、今の所有者に6回で、このうち改善の指導は前の所有者に8回、今の所有者に3回です。

亀裂をモルタルで埋める補修は複数回行われていましたが、区は「抜本的な安全対策は行われていない状況が続いていました」としています。2024年10月の調査で亀裂が広がっていたため、区は改めて指導し、通行人への注意のためにカラーコーンを置きました。2025年9月24日に所有者が区を訪れて補強工事を行うと報告し、その6日後に崩れました。

この経過から読み取れることが3つあります。

1つめは、指導が続いても、工事をするのは所有者だということです。区は亀裂を把握してから41年のあいだ調査と指導を続けました。区の発表に、区が代わりに擁壁を直したという記載はありません。

2つめは、崩れたあとの片づけも所有者が行ったことです。区の発表によると、がれきの撤去は所有者が行い、2025年10月10日に完了しました。大型土のう(=土を詰めた大きな袋)を置く暫定的な安全対策工事も所有者が行い、12月26日に完了しています。

3つめは、持ち主が替わると、指導の相手も新しい持ち主に替わることです。区は前の所有者にも今の所有者にも改善を指導していました。擁壁のある土地を取得する場合は、それまでに指導を受けていないかを売主に確かめておくと、判断の材料になります。

区はこの事故のあと、把握している擁壁のうち安全性に問題がある24件を緊急点検し、2件で傾きやはらみ(=壁が外へふくらむこと)が進んでいたと公表しました。この2件について区が行うとしたのも、所有者に安全上必要な措置を行うよう指導することでした。

1つの区の経過なので、ほかの市区町村が同じ対応をするとは限りません。なお杉並区は、区道に接するがけや擁壁の改善工事について、区が契約した金融機関のローンを紹介する制度を案内しています。もらえるお金ではなく、借りるお金です。

隣の擁壁が危ないとき、行政ができることは限られます

ここが、いちばん期待とずれるところです。

神奈川県は、隣接地との境界問題などの民事のもめごとについて、当事者間で話し合って解決することになると案内しています。ページには「※行政機関が民事トラブルに指導・介入することはできません。」と明記されています。

横浜市も、隣地のがけの樹木の枝が境界を越えている場合について、こう答えています。

市が、民地の樹木等を伐採することはできません。

市では民法に基づく指導等ができないため、直接、土地所有者に伐採などの対応をお願いしていただく必要があります。

樹木の話ですが、市が民法に基づく指導をできないという理由は擁壁でも同じです。

ただし、行政が動ける形が1つだけあります。盛土規制法第23条第2項です。

土地所有者等以外の者の不完全な工事その他の行為によって災害のおそれが生じたことが明らかで、その行為をした者に工事を行わせることが相当と認められ、かつ土地所有者等に異議がないときは、都道府県知事はその行為をした者に対して工事を命ずることができる、という形になっています。

条文には、その行為が隣地における土地の形質の変更である場合について、その土地の所有者を含む旨のかっこ書きが置かれています。

隣が造成をして、そのせいで擁壁が危なくなった、という筋道が明らかな場合に限られます。古い擁壁が年月とともに傷んだ、という場合は当てはまりません。

相手の負担で直させる民事の手段——妨害予防請求

行政が動けないとき、残るのは民事の手段です。その1つが、土地の所有権にもとづく妨害予防請求です。

妨害予防請求とは、自分の土地に損害が出るおそれがあるとき、その原因をつくっている相手に、危険を取りのぞく工事を求めることです。民法に直接の条文はなく、判例で認められてきた考え方です。

隣の擁壁に客観的に見て崩れる危険が大きい場合、この請求として相手の負担で擁壁の修繕工事を求めることができる。複数の弁護士がそう解説しています。

ただし、請求する側が示さなければならないことが3つあります。

✓ ここが要点

妨害予防請求で示す必要があるのは、①自分と隣の土地の所有関係、②自分の土地に生じる危険が客観的に見て極めて大きいこと、③その危険の原因が隣の土地にあること、の3つです。とくに②と③は「不安だ」というだけでは足りません。地形や地質、雨や地震のときの危険について、専門家の意見書や鑑定書(=専門家が危険の程度を調べてまとめた書類)で裏づける必要があります。

もう1つ、擁壁が人の手で造られたものか、自然の崖かでも分かれます。人工の擁壁なら原則として請求が認められ、費用は相手の負担になります。一方、自然の崖が崩れそうな場合は、危険が両方の土地に共通するとして請求が認められず、費用を双方で分ける考え方が東京高裁の判例で示されています。

意見書や鑑定書には費用がかかります。危険をはっきり示せない場合は、裁判に進む前に、費用を分けあって先に手を打つなど、話し合いの余地を残しておくことも1つの方法です。認められないこともある手段なので、進め方は弁護士に相談してください。

公費が出るのは、237市中192市が道路に面する塀です

擁壁と塀は別のものですが、危険な塀を撤去する補助については、当サイトが全国の市区町村を1つずつ調べています。そこから見えることが、隣同士の問題を考えるときの手がかりになります。

✎ 私の調査メモ

編集部で全国の市区町村の公式ページを確認し、危険なブロック塀等の撤去補助を確認できたのは237市区町村でした。この237市区町村の条件文を機械で読み直したところ、192市区町村が道路・通学路・避難路・緊急輸送道路などに面していることを条件にしていました。そして45市区町村は、隣の家との境界だけにある塀を明示的に対象外と書いていました(確認日 2026-08-12)。

数字の向きがはっきりしています。公費は、通行人や避難路を守るために出ています。隣同士の間に立っているだけのものは、多くの市で対象から外れます。

擁壁そのものについても事情は似ています。当サイトが確認した237市区町村のうち、擁壁そのものを撤去の対象に含めていたのは1市でした。詳しくは擁壁の補助金にまとめています。

補助が届かない以上、隣との間の擁壁を直す費用は当事者で負担することになります。ここを先に知っておくと、話し合いの入口が変わります。

上の家のものか、下の家のものか

擁壁が誰のものかは、敷地の境界がどこにあるかで決まります。調べる順番は次のとおりです。

  1. 法務局で資料を取る

    登記事項証明書と公図を取り、擁壁が敷地のどちら側に入っているかを確かめます

  2. 造成のときの記録を探す

    宅地造成の許可や検査の記録が市に残っていることがあります。市の宅地担当窓口で確認します

  3. 境界がはっきりしないとき

    土地家屋調査士に相談します。神奈川県は境界問題相談センターかながわを紹介しています

  4. 話し合いがまとまらないとき

    弁護士に相談します。横浜市は市庁舎と各区役所で無料弁護士相談を予約制で行っています

登記を取っても持ち主にたどり着けないことがあります。相続が起きたまま名義が変わっていない場合です。

不動産登記法第76条の2第1項は、所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければならない、と定めています。

義務にはなりましたが、過去に止まったままの登記が自動で直るわけではありません。名義人が亡くなっている、相続人が多い、連絡先が分からないといった場合は、司法書士や弁護士に相談する形になります。

境界線の上に建っている場合について、民法第229条に定めがあります。

境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。

読むときに注意したい点が2つあります。

1つは、列挙されているものです。境界標・囲障・障壁・溝・堀が挙げられています。擁壁がこの中のどれに当たるかは、条文の文面だけでは決まりません。

もう1つは、共有と決めているのではなく推定していることです。推定なので、どちらか一方のものだと分かる資料が出てくれば、そちらが優先します。造成のときの図面や、費用を誰が出したかの記録が手がかりになります。

助成の側から見ると、共有であること自体は申請の妨げになりません。杉並区の擁壁等安全対策工事等の助成は、対象者に個人を挙げたうえで、共有名義の場合は合意された代表者としています。マンション等の管理組合については、総会等で決議を得た代表者としています。共有だから使えない、ではなく、代表者を決めることが条件という形です。

水抜き穴から隣へ水が出るとき

隣との間で起きやすいもめごとの1つが、擁壁の水抜き穴から出る水です。

民法第218条に、次の定めがあります。

土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。

屋根その他の工作物という書き方なので、屋根だけの話ではありません。

一方で、水抜き穴は擁壁の安全に欠かせないものです。国土交通省の我が家の擁壁チェックシート(案)は、水抜き穴が設置されていない場合と、3平方メートルに1か所以上・内径75ミリメートル以上を満たしていない場合を、周辺環境の項目で最も重い2.0点にしています。塞げば擁壁の裏に水が溜まり、擁壁を倒そうとする力が大きくなります。

塞いで解決する話ではない、というのがここでの要点です。排水の経路をどう変えるかを含めて、専門家と隣の方の双方に相談する形になります。自分の擁壁の点数を先に測っておきたい場合は、擁壁の危険度——国のチェックシートは合計9.0点以上を危険性が高いと判定しますで数え方を整理しています。

相談先

内容によって行き先が分かれます。

相談したいこと 行き先
自分の擁壁が危険かどうか 市区町村の建築・宅地の担当窓口
擁壁の状態を詳しく調べたい 地質調査会社・地盤品質判定士などの専門家
隣との境界の位置 土地家屋調査士(境界問題相談センター)
境界以外の隣とのもめごと 弁護士(自治体の無料法律相談を含む)
隣の擁壁を相手の負担で直してほしい 弁護士(妨害予防請求の見通しを聞く)
擁壁の設計・工事の内容 建築士事務所

※ 表は横にスクロールできます

神奈川県は、地盤品質判定士について、住宅・宅地の安全と防災に貢献する専門家で国土交通省から「宅地防災」分野で認定・登録された資格だと説明しています。同会神奈川支部への相談は個人が自ら所有している擁壁のみが対象で、他人が所有する擁壁については相談できないと明記されています。隣の擁壁を調べてもらう、という使い方はできません。

横浜市は、市庁舎及び各区役所で無料弁護士相談を予約制で行っていると案内しています。同じような相談窓口は多くの自治体が設けています。

よくある質問

擁壁が崩れて隣の家に被害が出たら、誰が賠償するのですか?

民法第717条第1項は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者が被害者に対して損害を賠償する責任を負うと定めています。ただし書きで、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならないとしています。つまり順番があり、まず占有者、占有者が必要な注意をしていた場合は所有者です。所有者の側にはこのただし書きのような免れる定めが置かれていません。なお、条文が求めているのは設置または保存に瑕疵があったことなので、実際に当てはまるかどうかの最終的な判断は裁判所が行います。

借りている土地の擁壁でも、借りた人の責任になりますか?

民法第717条第1項の条文では、まず賠償の責任を負うのは占有者です。土地を借りて使っている方は占有者に当たり得ます。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは所有者が賠償するとされているので、借りた人が必ず負担するという定めではありません。また同条第3項は、損害の原因について他に責任を負う者があるときは、占有者又は所有者はその者に対して求償権を行使することができるとしています。契約の中で修繕の分担を決めている場合もあるので、賃貸借契約書もあわせて確認してください。

擁壁を直す義務は、法律で決まっているのですか?

努力義務としては決まっています。建築基準法第8条第1項は、所有者・管理者・占有者に対して、常時適法な状態に維持するように努めなければならないと定めていて、同法第88条第1項がこの規定を政令で指定する工作物に準用しています。政令が指定しているのは高さが2メートルを超える擁壁です。宅地造成及び特定盛土等規制法第22条第1項も、宅地造成等工事規制区域内の土地の所有者、管理者又は占有者に対して、災害が生じないようその土地を常時安全な状態に維持するように努めなければならないとしています。どちらも努めなければならないという書き方で、直ちに工事を義務づけるものではありません。

行政が命令を出してくれることはありますか?

あります。宅地造成及び特定盛土等規制法第23条第1項は、宅地造成等工事規制区域内の土地で必要な擁壁等が設置されておらず、または極めて不完全であるために放置すると災害の発生のおそれが大きいと認められる場合に、都道府県知事が土地又は擁壁等の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて擁壁等の設置若しくは改造などの工事を行うことを命ずることができるとしています。建築基準法第10条第3項も、著しく保安上危険であると認める場合に特定行政庁が所有者・管理者・占有者へ措置を命ずることができるとしていて、第88条第1項によって擁壁にも準用されます。ただしどちらも行政が危険と認めた場合の話で、相談すれば出るものではありません。

隣の擁壁が危ないので、市から指導してもらえませんか?

民事のもめごとに行政は介入できません。神奈川県は、隣接地との境界問題などの民事トラブルは当事者間で話し合って解決することになると案内しています。横浜市も、隣地のがけの樹木が境界を越えている場合について、市が民地の樹木等を伐採することはできない、市では民法に基づく指導等ができないため直接土地所有者に対応をお願いしていただく必要がある、と答えています。ただし例外があり、宅地造成及び特定盛土等規制法第23条第2項は、隣地における土地の形質の変更などによって災害のおそれが生じたことが明らかな場合について、その行為をした者に工事を命ずることができるとしています。

擁壁が上の家と下の家のどちらのものか分かりません。調べる方法はありますか?

まず法務局で登記事項証明書と公図を取り、擁壁が敷地のどちら側に入っているかを確かめるところからです。境界の位置がはっきりしない場合は土地家屋調査士の仕事になります。神奈川県は、隣接地との境界問題について神奈川県土地家屋調査士会の境界問題相談センターかながわを紹介しています。擁壁が境界のどちら側にあるかで、上の土地の所有者のものか下の土地の所有者のものかが変わります。造成したときの図面や、宅地造成の許可・検査の記録が市に残っていることもあるので、市の宅地担当窓口にも確認してみてください。

境界線の上に建っている擁壁は、共有になるのですか?

当然に共有になるとは限りません。民法第229条は、境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定すると定めています。ここで気をつけたいのは2つで、1つは列挙されているのが境界標・囲障・障壁・溝・堀であること、もう1つは共有と決めているのではなく推定していることです。推定なので、どちらか一方のものだと分かる資料があればそちらが優先します。擁壁がこの列挙に当たるかどうかも含めて、実際の扱いは個別の事情によります。判断に迷う場合は弁護士に相談してください。

擁壁の水抜き穴から隣の敷地へ水が出ています。問題になりますか?

雨水を直接隣地に注ぐ形については、民法第218条が「土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。」と定めています。工作物という言い方なので、屋根に限りません。一方で水抜き穴そのものは擁壁の安全に欠かせないもので、国土交通省の擁壁のチェックシートは、水抜き穴が3平方メートルに1か所以上・内径75ミリメートル以上という技術基準を満たしていない場合を最も重い点数にしています。塞いで解決するものではないので、排水の経路をどう変えるかを含めて、専門家と隣の方の双方に相談する形になります。

隣の擁壁が崩れそうです。相手の負担で直してもらうことはできますか?

行政は民事のもめごとに介入できないので、民事の手段になります。土地の所有権にもとづく妨害予防請求として、隣の擁壁に客観的に見て崩れる危険が大きい場合に、相手の負担で修繕工事を求めることができると判例上認められています。ただし、請求する側が、危険が極めて大きいことと、その原因が隣の土地にあることを、専門家の意見書や鑑定書で示す必要があります。人の手で造った擁壁なら原則として認められますが、自然の崖の場合は認められず、費用を双方で分ける考え方を示した判例があります。認められないこともある手段なので、進め方は弁護士に相談してください。

擁壁が崩れて人や家に被害が出たら、賠償はどれくらいの金額になりますか?

個別の事情で変わりますが、公開されている事例では数千万円から億の単位です。2020年に逗子市で分譲マンションの敷地内の斜面が崩れ、下の道路を歩いていた高校生が亡くなった事故では、遺族がマンションの所有者らに約1億1800万円の賠償を求めて提訴し、2023年6月に横浜地裁で1億円を支払う内容の和解が成立しました。2016年に北九州市で大雨のときに擁壁が崩れた事故では、福岡地裁小倉支部が2024年7月に、土地を売った会社・開発した会社・設計者の3者に約2800万円の賠償を命じています。

擁壁の所有者は、過失がなくても責任を負うのですか?

民法第717条第1項のただし書きは、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは所有者がその損害を賠償しなければならないと定めていて、所有者の側には、注意をしていれば免れるという定めがありません。これを無過失責任といいます。国土技術政策総合研究所が公開している弁護士の解説も、所有者の責任は無過失責任であり、十分に注意を払っていた場合でも責任を負うと説明しています。ただし、責任の前提は擁壁の設置又は保存に瑕疵があることです。瑕疵が無ければ、この条文の責任は生じません。大地震や大型台風がきっかけの場合について、同じ解説は、自然の力と瑕疵がそれぞれどれだけ損害に影響したかを検討して責任の割合が決まるとしています。最終的な判断は裁判所が行います。

市や区から指導を受けていた擁壁が崩れた場合、片づけや工事は行政が行うのですか?

杉並区の例では、所有者が行いました。2025年9月30日に杉並区堀ノ内一丁目で高さ4〜5メートルほどの擁壁が崩れ、上に建っていた一戸建てが全壊しました。区は1984年にこの擁壁の亀裂を把握し、毎年の現地調査と、文書や対面での指導を続けていました。区の発表によると、がれきの撤去は所有者が行って2025年10月10日に完了し、大型土のうを置く暫定的な安全対策工事も所有者が行って12月26日に完了しています。1つの区の例なので、ほかの市区町村で同じ扱いになるとは限りません。

まとめ

  • 民法第717条は、崩れて他人に損害が出たときの賠償をまず占有者、占有者が必要な注意をしたときは所有者という順番で定めている
  • 所有者の側には、占有者のような免れる定めが置かれていない。これを無過失責任という。地震や台風がきっかけでも、擁壁に瑕疵があれば責任は消えず、割合の話になる
  • 建築基準法第8条は高さ2メートルを超える擁壁に、盛土規制法第22条は宅地造成等工事規制区域内の土地に、それぞれ維持の努力義務を置いている。どちらも努めなければならないという書き方
  • 工事を命じられるのは、盛土規制法第23条や建築基準法第10条第3項で行政が危険だと認めた場合に限られる
  • 杉並区の例では、区が亀裂を把握してから41年のあいだ指導が続いたが、工事も、崩れたあとのがれきの撤去も所有者が行った
  • 隣とのもめごとに行政ができることは限られる。神奈川県は民事トラブルに指導・介入できないと明記し、横浜市は民法に基づく指導等ができないと答えている
  • 例外は盛土規制法第23条第2項で、隣の造成などが原因だと明らかな場合に、その行為をした者へ工事を命じられることがある
  • 行政が動けないときの民事の手段として、所有権にもとづく妨害予防請求が判例で認められている。相手の負担で修繕を求められるが、危険が極めて大きいことを専門家の書類で示す必要があり、認められないこともある
  • 逗子市の斜面崩落では所有者らが1億円で和解、北九州市の擁壁崩落では売主・開発業者・設計者に約2800万円の賠償命令。賠償は数千万円から億の単位になり得る
  • 民法第229条は境界線上の境界標・囲障・障壁・溝・堀を共有と推定する。決めているのではなく推定なので、資料があればそちらが優先する
  • 当サイトが危険ブロック塀の撤去補助を確認した237市区町村のうち192市区町村が道路等に面することを条件にし、45市区町村は隣の家との境界だけにある塀を対象外としていた
  • 水抜き穴は塞げない。民法第218条は雨水を直接隣地に注ぐ工作物を禁じているが、水抜き穴を失うと擁壁の裏に水が溜まる

※本記事の制度情報は2026年8月12日時点で各公式ページ・法令を確認したものです(裁判例と事故の事例は2026年9月12日に、杉並区の例と無過失責任の解説は2026年10月5日に確認して追記しました)。法令や制度は改正されることがあります。個別の事案の判断は弁護士など専門家にご相談ください。

参考情報(出典)

家の補助金ナビ編集部

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